債権 民法

損害賠償・特別損害をわかりやすく解説!

この記事は「損害賠償」について行政書士試験対策向けにわかりやすく解説しています。

損害賠償の方法・金銭賠償の原則

損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めるものとされています(金銭賠償の原則。417条)。

中間利息の控除例えば、会社は、その従業員に対して健康の維持や安全の確保をしながら労働することができるように安全配慮義務を負います。会社がこの安全配慮義務を怠ったために、従業員がケガをした場合、その従業員は、当該従業員がケガをしていなければ得られたであろう収入(逸失利益)や必要となる介護のための費用をまとめて請求できます。一方、会社側からすると、先に金銭等を支払うため、その間の運用益分について損をすることになります。そこで、将来において取得すべき利益(ケガをしていない場合に得られたであろう収入)についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除することを可能とし、その場合、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これを算定することができます(417条の2第1項)。将来において負担すべき費用(介護のための費用)についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、上記と同様とされます(417条の2第2項)。

債務不履行に対する損害賠償の範囲

【原則】通常損害

第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

債務不履行による損害賠償の範囲は原則「通常生ずべき損害」とされています(通常損害、416条1項)。
(損害賠償の)債権者は、通常損害については、当然に請求できます。

・買主が第三者から代替物を購入したときの購入価格(大判大7・11・14)
・買主が第三者と転売契約を締結していた場合の転売利益(大判大10・3・30)。
・買主が転売契約を締結した第三者に債務不履行による損害賠償をした場合の賠償額(大判明38・11・28)
・買主が目的物を使用して営業利益を得る予定であった場合のその利益(最判昭39・10・29)

【例外】特別損害

第416条
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者(債務者)がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる

※「当事者」とは、「債務者」を意味するというのが判例(大判大7・8・27)です。

債務者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、特別の事情によって生じた損害を請求することができます(特別損害。416条2項)。
特別事情を予見すべきであったことについては、利益を受ける債権者が立証責任を負います(大判大13・5・27)。

Mr.OK(著者)
損害賠償は「通常損害」だけでいいのですが、例外的に特別損害が生じます。
「この損賠賠償は特別ですよ」と言うのは損害賠償請求権の債権者なので債権者側が当然「特別であることの証明責任」を負うわけです。

また、特別の事情の予見がどの時点で必要であるかについて、判例は、債務不履行時にあればよいとしています(大判大7・8・27)。

たとえば、材料を納期までに納入できず、工場が製品を製造できなかったために取引先に契約を打ち切られた場合の工場の損害などは特別損害にあたります。
たとえば、部品屋さんが部品を工場に納入する契約を結んでいたとします。

これで部品を納期に届けられなかったため部品屋は工場に対して債務不履行が起こっているわけです。

工場は工場で工場の取引先会社Aに部品を組み立てて引き渡す債務を負っているとして、
部品屋の債務不履行のせいで、工場は会社Aに対する債務不履行を起こしてしまうことになったわけです。

これで工場は会社Aに製品を引き渡せなくなってしまったので当然、会社Aからの売り上げも入らなくなってしまいます。
通常損害の場合だと、この売上金の損害賠償(利息なども付加して)支払えばいいのですが、
この例の場合、部品屋の債務不履行のせいで、工場は会社Aに今後の契約を打ち切られてしまいました・・・。

こうなると、工場Aは会社Aからの売り上げがまるまるなくなってしまうことになります。もし来月も再来月も受注を受けるような
お得意様だったら・・・こういうのを「特別損害」と言います。

とはいえ、この特別損害をどこまでも許してしまうと「なんでもかんでも損害賠償が認められる」ことになってしまうので、
この特別損害の立証責任は損害賠償請求権の債権者側になります(この場合は、工場が証明しなくてはいけません(損害賠償請求においては、部品屋は債務者で工場は債権者))

Mr.OK(著者)
損害賠償においては、
やらかした側(債務不履行をやってしまった側)は、損害賠償請求される側なので債務者で、
やらかされた側(債務不履行をやられてしまった側)は、損害賠償請求できる側なので債権者になりますね。
債権債務関係は文字面だけで暗記するとややこしいので、きちんと理解しましょうね。

物の価格が変動するものに対してどこまで特別損害を認めるか

特別損害については、債務不履行後、口頭弁論終結時までの間に不履行の対象である物の価格が上下に変動する場合に、債権者は、最高に値上がりした価格(「中間最高価格」という)を請求できるかという問題があります。

価格が一時的に高騰したり不規則な場合

基本:基本は債務不履行時の価格で算出=中間最高価格では損害賠償額を算出できない
例外:債権者が転売契約があるような別の事情を予見し、又は予見しえたことを証明しない限り、請求することができない(富喜丸事件、大連判大15・5・22)。

基本:基本は債務不履行時の価格で算出=中間最高価格では損害賠償額を算出できない
例外:債権者が転売契約があるような別の事情を予見し、又は予見しえたことを証明しない限り、請求することができない(富喜丸事件、大連判大15・5・22)。

価格が規則的に上昇している場合

また、債務不履行の対象である物(土地など)の価格が継続的に上昇していた事件において、
債務者がその事情を知り、又は知り得たときは、口頭弁論終結時の価格まで値上がりする前に債権者が目的物を処分したであろうと予想された場合でない限り、騰貴した現在の価格(口頭弁論終結時の価格)による損害賠償を請求できると判事しています。(最判昭37・11・16)。

基本:基本は債務不履行時の価格で算出
例外:債務者が「価格が上がり続けること」に悪意または有過失のとき&債権者(損害賠償請求する側)が値上がり前に目的物を処分したであろうと予測できない→債権者は、口頭弁論終結時の最高価格の損害賠償を請求できる

 

Mr.OK(著者)
値段が乱高下するもの等は、中間最高価格(一番値段が上がっている高騰している時期の価格)を特別損害で請求OKとしてしまうと、債務者には理不尽に不利になってしまいます。
もしかしたらたまたま値段が上がっただけの場合もありますし、そこまでも特別損害として認める事例は少ないということです。
しかし、債権者がこの上昇する時期に転売すると確定していたり「高騰時の価格で利益を獲得していた」と証明できれば例外的に中間最高価格でもOKとしているのです。

不法行為に対する損害賠償請求は、民法416条(債務不履行に対する損害賠償請求)を類推適用

ところで民法416条は「債務不履行」の損害賠償請求規定ですが、「不法行為」に対する損害賠償請求とは違うのでしょうか?
結論から言うとほぼ同じと考えてOKです。

Mr.OK(著者)
準用:ある事柄について、別の類似した事柄に関する一定の規定に論理的に必要な修正を行った内容の効力を及ぼす(要は、同じような内容の事柄に、元々ある規定を同じくあてはめるってこと)
類推適用:ある事柄に関する規定の背後にある趣旨を別の事柄についても及ばせて新たな(明文のない)規範を創造しそれを適用する(要は、別の内容の事柄の背景や文脈が同じような場合に、その背景と文脈の共通点を根拠に、元々ある規定を同じくあてはめるってこと

要は両方ともほぼ同じような意味です。

「同じようなもんなので、これにもあてはめちゃおう!」って感じですね。

民法416条の場合も「債務不履行に対する損害賠償」の項目なんだけど、
「不法行為に対する損害賠償請求」にもあてはめちゃっていいよねってことです。

判例では、民法416条が不法行為による損害賠償にも類推適用されるとしています。

過失相殺

債務不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して、
債権者に過失があったとき、裁判所は債権者の過失を考慮して、損害賠償の責任及びその額を定めます

Mr.OK(著者)
損害賠償請求の債権者(損害賠償を請求する側)の過失があった場合は、損害賠償金額から「債権者の過失分だけマイナスする」ということです。

例えば、Aがエビの養殖業者Bからエビを購入したところ、Bが病気のエビを引き渡したため、Aの所有する他のエビに伝染して、水槽のすべてのエビが死んでしまったとします。
この場合、Aにも水槽の管理に過失があったときは、裁判所は、これを考慮しなければなりません。
仮に、AとBの過失の割合が、3(A):7(B)と認定され、損害額が100万円であるときは、損害賠償額は70万円ということになります。

Mr.OK(著者)
要は損害賠償を請求するって言っても、請求する側にも落ち度があったならその分は引いてあげないと請求される側(債務者)かわいそうだよね!ってことです。

不法行為による損害賠償については、被害者に過失があったときは裁判所は、
これを考慮して損害賠償の額を「定めることができる」となっています

Mr.OK(著者)
債務不履行の損害賠償請求の過失相殺は必ず行う!
不法行為の損害賠償請求の過失相殺はすることもしないことも裁判所の判断次第!

不法行為の場合は、損害賠償請求の債権者(不法行為を受けて損害賠償を請求する側=不法行為の被害者)は「被害者でかわいそう」な場合も
あるのでその場合は裁判所の判断で「被害者の過失は考慮しない」と判断することもできるということです。もちろん「考慮する」こともできます。

債務不履行 ・裁判所は、必ず債権者の過失を考慮しなければならない(必要的)。
・債務者の責任免除もOK。
不法行為 ・裁判所は、被害者(債権者)の過失を考慮することができる(裁量的)。
・加害者(債務者)の責任免除はできない。

履行の強制

履行の強制とは?

履行の強制とは、債務者が任意に履行しない場合、裁判所によって強制的に債権の内容を実現してもらうことをいいます。
債務者が債務を履行しないからといって債権者が自ら強制的に債務者に履行させることは、許されません(自力救済の禁止)。

Mr.OK(著者)
たとえば、Aさん(貸主)がBさん(借主)にお金を貸しているとします。
ところが、Bさんがお金を持ってるのに、Aさんにお金を返さないとします。
その際、貸主Aさんが借主Bさんの財布からお金を勝手に抜いてお金を返してもらう等が自力救済なのです。

人情的には、AさんはBさんにお金を貸しているのだから、お金を持ってるBさんの財布から貸してる分だけお金を抜いても
いいじゃん!って思うかもしれませんが、それはダメなのです。むしろこの場合、AさんがBさんから窃盗罪で警察に通報されてもおかしくありません。

Aさんはきちんと法に基づき、裁判所にBさんの財産を差し押さえしてもらうなどの手段をとらなければならないのです!

債権者は、民事執行法等に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができます。(この請求により、損害賠償の請求は妨げられない。)

損害賠償額の予定

損害賠償額の予定とは?何のためにあるのか?

損害賠償額の予定とは、債務不履行があった場合、債務者が支払う損害賠償額をあらかじめ当事者間で定めておくことです。

Mr.OK(著者)
この契約破ったら100万円の損害金もらうね!みたいなあらかじめの取り決めです。

通常損害賠償を請求するには、債権者が損害の発生と損害額を証明しなければなりませんが、この証明は容易ではありません。「実際どのくらいの損害を受けたのか」を証明するのは難しいし、面倒なことです。
なので、契約時等にあらかじめ損害賠償額を定めておき、双方同意の上で契約を結んでおく等するのです。

このように、損害賠償額の予定をしておくと、債権者は、債務不履行の事実さえ証明すれば予定賠償額を請求することができるのです。

Mr.OK(著者)
ただし、たとえば1万円の売買契約において、債務不履行が発生したら1000万円の損害金を申し受けます!等
法外な金額を定めるのは無効とされます。

損害賠償額の予定の効果

損害賠償額の予定をすると、次の効果が発生します。

・債権者は、債務不履行の事実を証明しさえすれば、損害の発生や損害額を証明せずに予定賠償額を請求できる。
・万が一、損害額が予定賠償額を上回っても予定賠償額しか請求することができない(420条1項)。
・損害賠償額の予定をした場合でも、債権者は、債務の履行の請求や契約の解除をすることができる(420条2項)。

Mr.OK(著者)
損害賠償額の予定は取引の利便性向上のためにあります。要は債務不履行になったときに損害賠償が簡単にできるのであれば、安心して契約できるよねー!って感じです。

違約金との違いは?

損害賠償の予定という言葉よりも「違約金」という言葉のほうがよく聞くのではないでしょうか??
違約金とは、債務不履行の場合に債務者が債権者に支払うことをあらかじめ約束した金銭をいいます。
そして損害賠償の予定額との違いですが、
民法では、違約金について「賠償額の予定と推定する」と規定しています(420条3項)ので、
違約金=賠償額の予定と覚えておいてOKです。

Mr.OK(著者)
ちなみに私人間が設定する「罰金」は無効です。
よくあるのが駐車場で「無断駐車は金3万円の罰金です」と表記しているのがありますが「無効」なので支払い義務はありません。

まとめ

・債務不履行の損害賠償請求と、不法行為の損賠賠償請求がある
・特別損害の額の立証責任は「債権者(損害賠償請求する側=債務不履行の場合は約束破られた側・不法行為の場合は被害者側)」
・債務不履行の損害賠償請求のポイント

債務不履行 ・裁判所は、必ず債権者の過失を考慮しなければならない(必要的)。
・債務者の責任免除もOK。
・帰責性の証明は債務者(=債務不履行の損害賠償を請求される側=約束破った方)
不法行為 ・裁判所は、被害者(債権者)の過失を考慮することができる(裁量的)。
・加害者(債務者)の責任免除はできない。
・帰責性の証明は債権者(=不法行為の損害賠償請求する側=被害者側)

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