この記事は「行政不服審査法の審査請求・不服申し立て適格・審査請求先」ついて行政書士試験対策向けにわかりやすく解説しています。
行政不服審査法の制定・歴史
行政不服審査法の前身は明治23年に制定された「訴願法」でした。
これは、国民の権利救済を目的とした法律ではなく、その手続が曖昧な規定だったため不備がたくさんありました。
その後、昭和37年に旧・行政不服審査法が制定・施行されました。
この旧法も、不備がたくさんありました。請願法よりもマシでしたが、手続き等が曖昧だったためです。
そして、平成26年に全文改正(いわゆる抜本的な改正)がされ、平成28年4月1日現在の行政不服審査法が施行されました。

「誤っていない選択肢」でちょろっと出たりします。
行政不服審査法とは?定義・目的・一般法?
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、①国民の権利利益の救済を図るとともに、②行政の適正な運営を確保することを目的としています(1条1項)
※平成26年の全文改正により「簡易」「迅速」+「公正な」手続を定めるという記述が追加
そして、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる(1条2項)。
行政不服審査法は「処分その他公権力の行使にあたる行為に関する不服申立て」の一般法であることを明確に条文で定義していることもおさえておきましょう。

個別の法律に何か権利救済等の規定がない限り、すべてこの行政不服審査法に従って権利救済の手続きを踏む!ということです。
行政不服審査法が定める「不服申立て=審査請求」の種類
行政不服審査法では、以下の「不服申立て制度」が規定されています。
①審査請求
②再調査の請求(※個別法に規定がある場合のみ)
③再審査請求(※個別法に規定がある場合のみ)
ただし、実質的に不服申し立てする際はほぼ①審査請求になります。
なぜなら、②再調査の請求と③再審査請求」については、法律(個別法で)にその請求を認める旨の規定がある場合のみ行使できるからです。
なので、3種類あるというよりも、「審査請求」に一元化されていると覚えておきましょう。

審査請求とは?定義・審査請求できる対象となる行政庁の行為
「審査請求」とは、処分(又は不作為)をした行政庁(処分庁・不作為庁)又は行政庁以外の行政機関(上級行政庁や第三者機関)に対して不服申立てをするものです。(審査請求の相手方(どこに審査請求するか)は詳しく後述しています)

ちなみに裁判所の結果は「判決」、審査請求の結果は「裁決」です。
審査請求の対象となる行政庁の行為「行政庁の処分または不作為」(原則)
行政不服審査法は、広く行政庁に対する不服申立ての可能性を開くため、原則として、
「行政不服審査法の「処分」又は「不作為」に該当するのであればすべて審査請求を認める」という考え方をとっています。
これを「一般概括主義」と言います。(これが原則で、もちろん後述で適用除外=例外が出てきますよ!)

法律に規定した処分又は不作為についてだけ不服申立てを認めるということです。
そしてこの行政不服審査法は、一般概括主義で後述の適用除外以外はすべて認めています。
〇一般概括主義 ×列記主義
・処分=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
・不作為=法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと(作為が行われていない=不作為=行政庁にシカトされてる状態)


「不作為」は、「法令に基づく申請」かつ「処分をしないこと」の2つの条件を満たしています。つまり「処分せなあかんところ処分してない=シカトされてる」っていうイメージです。
処分又は不作為についての適用除外(例外・審査請求の対象とならない行政庁の行為)
では行政不服審査法で規定されている審査請求に対象にならない例外事項=適用除外事項について書いておきます。
1.国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分
2.裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分
3.国会の両院若しくは一院若しくは議会の議決を経て、又はこれらの同意若しくは承認を得た上でされるべきものとされている処分
4.検査官会議で決すべきものとされている処分
5・当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの
6・刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官又は司法警察職員がする処分
7・国税又は地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、国税庁、国税局若しくは8・税務署の当該職員、税関長、税関職員又は徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分及び金融商品取引の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長又は財務支局長がする処分
9・学校、講習所、訓練所又は研修所において、教育、講習、訓練又は研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児若しくはこれらの保護者、10.講習生、訓練生又は研修生に対してされる処分
11.刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所又は婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分
12.外国人の出入国又は帰化に関する処分
13.専ら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分
14.この法律に基づく処分(行政不服審査会の設置及び組織に関する規定を除く。)
実はこれ、行政手続法の適用除外事項とほぼほぼ重複しています。なので行政手続法の適用除外の項目を覚えておけばOKです。
さらに、
国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為についても適用除外(7条2項)
この除外事項は、処分又は不作為に関する規定を含む全ての行政不服審査法の規定が適用除外とされています。
ちなみに、
審査請求をすることができない処分又は不作為につき、別に法令で当該処分又は不作為の性質に応じた不服申立ての制度を設けることができる(8条)
とあるので、一般法である行政不服審査法内では適用除外事項に列挙されているものでも、
個別法で独自に不服申立制度を設けることはできるという余地は残されています。

審査請求の不服申し立て適格(裁判で言うところの原告適格みたいなもの)
行政庁による裁判所ごっこである審査請求にも、不服申し立て適格(不服申し立てできる人)が定義されています。
いわゆる裁判でいうところの「原告適格」みたいなものです。
【処分についての審査請求】不服申し立て適格(不服申し立てができる者)
行政庁の処分に不服がある者は、4条及び5条2項の定めるところにより、審査請求をすることができる(2条)
・処分=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
・不服がある者:明確な定義がないですが、判例がある。
法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最判昭53・3・14)
・処分についての審査請求の不服申し立て適格:
不服がある者=法律上の利益がある者=自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者
と考えればよいです。
不服申し立て適格というのは、不服申し立てができる者ということです。要は不服申し立てしようと思えばできると規定されてる人のことです。
※裁判の場合は「原告適格」(行政事件訴訟法で出てきます)といって、「その裁判をすることができる者」です。
【不作為についての審査請求】不服申し立て適格(不服申し立てができる者)
法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、
行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。)がある場合には、
4条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる(3条)。
本法の審査請求が可能となる「不作為」とは、「法令に基づく申請」でなければならず、「何らの処分をもしない」ことであるので、行政庁が何らかの処分をした場合には、本法の不作為に該当しません。

不作為についての審査請求の不服申し立て適格:その申請をした者

その申請をした者だけが不作為の審査請求に関する不服申し立て適格者ということです。
審査請求先(審査庁):審査請求すべき行政庁
審査請求先(審査庁)は、区分分けされています。

審査庁?行政庁?処分庁?は?でも簡単です。
審査庁というのは別に審査専門をする庁(行政機関)が別にあるわけではなくて、
いろんな行政機関がある中でたまたま法律に基づいて審査するとされている行政機関を
便宜的に「審査する庁」ということで「審査庁」と呼ぶだけで、「審査庁」という行政機関があるわけではありません
行政庁の中でその処分をその人に実際にした行政庁を処分庁(処分をした行政庁)と呼び、
審査請求で審査する側になる行政庁を審査庁(審査をする行政庁)と呼んでるだけの話です。
処分庁等の最上級行政庁に審査請求を行う(原則)
原則は、処分庁(その処分をした行政機関)の最上級行政庁に審査請求します。

宮内庁長官又は内閣府設置法若しくは国家行政組織法に規定する庁の長が処分庁等の上級行政庁である場合には、宮内庁長官又は当該庁の長(4条2号)
主任の大臣が処分庁等の上級行政庁である場合(処分庁等に直接請求する場合と上記の①に掲げる場合を除く)には、当該主任の大臣(4条3号)
処分庁等に直接請求する場合と上記①②に掲げる場合以外の場合には、当該処分庁等の最上級行政庁(4条4号)
この場合は、最上級行政庁が審査するので、最上級行政庁が審査庁になります。

審査庁というのは別に審査専門をする庁(行政機関)が別にあるわけではなくて、
いろんな行政機関がある中でたまたま法律に基づいて審査するとされている行政機関を
便宜的に「審査する庁」ということで「審査庁」と呼ぶだけで、「審査庁」という行政機関があるわけではありません!!

※
上級行政庁:行政事務に関して、処分庁を指揮監督する権限を有する庁(中ボス)
最上級行政庁:上級行政庁の中でも、最上位にある行政庁のことです(大ボス)
処分庁・不作為庁(処分庁等)に審査請求を行う場合(例外1)
処分庁に上級行政庁がない場合は、その処分庁に審査請求します。
・処分庁等に上級行政庁がない場合
・処分庁等が主任の大臣若しくは宮内庁長官若しくは内閣府設置法若しくは国家行政組織法に規定する庁の長である場合
上記の場合には、当該処分庁等に直接請求(4条1号)

要は「悪いことしてる人自身が、裁判官になる感じ」です。え・・・ちゃんと審査してくれるの???
と思うかもしれませんが、おかしな裁決をすると「行政訴訟」(審査請求で気に食わなかったら、次は行政事件訴訟法に基づいて行政訴訟を起こすこともある。自由選択主義って覚えてます?覚えてない人はちゃんと覚えておこうねー!)を起こされることもあるので、当然ちゃんと審査してくれます。
法律・条例で定める審査庁に審査請求を行う場合(例外2)
個別法で審査庁が定められている場合は、その行政庁に審査請求します。

個別法優先で、個別法に規定されてる行政庁に審査請求してねー!ってことです。
法律(条例に基づく処分については、条例)に特別の定めがある場合には、上記以外の審査庁(4条本文)
次の記事では、その不服申し立ての流れについてくわしくわかりやすく解説していきます。
まとめ:審査請求とは?
・実質的に不服申し立てする際はほぼ①審査請求になります。
なぜなら、②再調査の請求と③再審査請求」については、法律(個別法で)にその請求を認める旨の規定がある場合のみ行使できる。
不服申し立ての手段は、「審査請求」に一元化されていると覚えておきましょう。
・審査請求は行政庁による裁判所ごっこ(ごっこといってもきちんとした法律で認められた手段ですよ)
<不服申し立て適格>
・処分の審査請求の不服申し立て適格:法律上の利益を有する者
・不作為の審査請求の不服申し立て適格:その申請をした者
<審査請求先>
・基本最上級行政庁(処分庁の最上級行政庁が審査庁になるということ)
・処分庁が最上級行政庁の場合は、その最上級行政庁自身(処分庁が審査庁になるということ)
・個別法に規定がある場合は、その法律に定める行政庁(処分庁がどこであれ、その法律に定められた行政庁が審査庁になるということ)