行政法 行政法総論

【行政法】行政行為の取り消しと撤回のちがい・定義をわかりやすく解説

この記事は「行政行為の取り消しと撤回」について行政書士試験対策向けにわかりやすく解説しています。

行政行為が無効になる2種類のパターン→取消しと撤回

違法な行政行為の取消し(無効化)には種類があり、

・取消し
・撤回

があります。頻出ですので必ずマスターしましょうね!

取消しと撤回の相違点

行政行為の「取消しと撤回」は、頻出です。

・いずれも行政行為の効力を消滅させること(無効化)
・「取消し」→行政行為の成立時から瑕疵が存在するため取り消すことによって行政行為の成立当初に遡ってその効力を消滅させるもの。(重大)
・「撤回」→行政行為の成立時は瑕疵がない状態だったのですが、後の事情により行政行為の効力を消滅させるというものであり、撤回するまでは有効とし、撤回した時から先の効力が消滅する。(取消よりかは重大ではない)

図解するとこのようになります。

取消し(重大) 撤回(取消よりかは重大ではない)
当初の瑕疵 当初から瑕疵あり 当初に瑕疵なし
主体 当該行政庁(処分庁)・上級行政庁・裁判所 当該行政庁(処分庁)
効果 遡及的に無効(全部無効) 将来的に無効(それまでのものは無効にはならない)
法律の根拠 不要 不要

また、行政庁が取り消す行為はその行為成立当初から瑕疵があるのに対し、「撤回」の場合は行為成立時には瑕疵はなく後に瑕疵が発生した場合になります。

当然当初から瑕疵がある行為に関しては、取り消してすべてを無効化しないといけないので「取消し」をしますし、
当初には瑕疵がなくても途中で瑕疵が発生した行為に関しては、「途中まではOKだけど、瑕疵発生した時点から無効化」するということです。

※なお、法令の条文では「取消し」とされていても上記の「撤回」の意味で用いられていることがあります。

Mr.OK(著者)
当該行政庁=処分庁です。言い回しが複数ありますが混乱しなくていいですよ。
「処分をした当該(当事者の)行政庁」なので「当該行政庁」と言ったり「処分庁」を言ったりするだけです。
法律の専門家になるにあたってこの程度の言い回しで右往左往しないようにしましょうね!頭をやわらかく!

【取消し】争訟取消しと職権取消し

「取消し」には争訟取消し職権取消しがあります。

・争訟取消し→行政不服審査法に基づく審査請求や行政事件訴訟法に基づく取消訴訟等を提起し、裁判所等の第三者機関によって取消しをしてもらうこと。
職権取消し→行政行為をした行政庁(処分庁)自らの判断により行政行為を取り消すこと。

職権取消しについては、もともと違法な行政行為であるため、その違法性を処分庁自らが認め是正するのは当然でありたとえ法律の根拠がなくても認められなければならないと解されています。

【取消し】授益的行政行為の職権取消し

先述のように、違法な行政行為については行政庁が職権により取り消すことが可能です。

例えば、国民に不利益を与えるような行政行為(侵害的行政行為)の場合には、侵害が取り除かれることにより国民は喜ぶので、自由に取り消しをすることが可能です。
しかし、営業の許可などの国民に利益を与える行政行為(授益的行政行為)の場合、その取消しにより国民が不利益を被ってしまい行政庁との信頼関係が破壊されてしまうことになるし、法定安定性を損なう可能性もあります。

なので、授益的行政行為の取り消しについては、一定の制約を受けます。

判例:受益的行政行為の取消しには制約がある

買収計画、売渡計画のごとき行政処分が違法または不当であれば、それが、たとえ、当然無効と認められず、また、すでに法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によってその効力を争い得なくなったものであっても、処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自らその違法または不当を認めて、処分の取消しによって生ずる不利益と、取消しをしないことによってかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができると解するのが相当である。

農地買収令書発付後約3年4箇月を経過した後に、買収目的地の10分の1に満たない部分が宅地であったという理由で買収令書の全部を取り消すことは、買収令書の売渡を受くべき者の利益を犠牲に供してもなお買収令書の全部を取り消さねばならない特段の公益上の必要がある場合でないかぎり、違法と解すべきである。

【撤回】撤回自由の原則

撤回は、行政行為がなされた当初は瑕疵はなく、有効なわけです。しかし撤回すると「撤回以降は無効化」するわけですよね。
基本的に「有効だとしてたけど、やっぱりおかしいので無効化する!」というのが撤回なので、法的な根拠がなくとも撤回は可能であるとしています(撤回自由の原則)。

Mr.OK(著者)
最初は有効だったけど「やっぱり無効だよね、こんな行政行為」と当該行政庁が「自己反省」する感じが撤回なのです。
「最初はおかしくなかったけど、だんだんおかしくなってることに気づいてるけどそのままやっちゃえ!!」となるのは行政に対する不安を生みますし、行政自ら「おかしい!」と気づいて撤回する分には
「撤回自由の原則」を設けておくほうが国民にとっては有益なわけです。

ジャイアンが「最初はのび太と遊んでてのび太も楽しんでた(当初は瑕疵なし)だったけど、だんだんのび太が泣き始めてやっぱりこれはおかしい!(のちに瑕疵が発生)」と自ら気づいて反省する分には誰も止めないわけです。そういうイメージで撤回を考えておくと理解しやすいですよ!

ただし、職権取消しと同様、授益的行政行為(国民の側が得する行為)については、一定の制約があると考えられており、判例も、撤回をする際には、公益上の必要性を要求しています。

判例:受益的行政行為の撤回には制約がある

被上告人医師会が昭和51年11月1日付の指定医師の指定をしたのちに、上告人が法秩序遵守等の面において指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、上告人に対する指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたというべきところ、実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、指定医師の指定の性質等に照らすと、指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができるというべきである。(最判昭63・6・17)

受益的行政行為の取り消し・撤回の取り扱い

受益的行政行為は国民が得するわけなので、それを取消し・撤回するには先述通り制約が例外規定が存在していますのでまとめておきます。

二重効果的行政行為の取扱い

行政行為によっては、Aさんにとっては授益的行政行為であっても、Bさんにとっては侵害的行政行為にあたる場合があります。
このような行政行為を二重効果的行政行為(複効的行政行為)と言いますが(覚えなくていい)、この場合、授益的行政行為に即して考えるべきであると解されています。

Mr.OK(著者)
行政法全般は基本的には「行政」のブレーキ機能なので国民が得する側の結果になることが多いと考えると、当たり前ですね!

授益的行政行為の職権取消し・撤回の手続

授益的行政行為の職権取消し・撤回により、その相手方が不利益を被ることになるため、行政手続法に規定する不利益処分に該当します(行政手続法2条4号)。行政手続法では、このような不利益処分をする際には、原則として聴聞手続又は弁明の機会の付与の手続を経なければならない旨の規定を設けています(行政手続法13条)。

取消権者・撤回権者

最後に「誰が取消・撤回を決めるのか」は取消しと撤回で異なるのでまとめます。

行政行為の取消し→当該行政庁(処分庁)・裁判所・上級行政庁

行政行為の取消しは、職権取消しと争訟取消しが認められているので、行政行為を行った行政庁(当該行政庁・処分庁)、審査請求の場合には審査庁、取消訴訟の場合には裁判所がそれぞれ取消しをすることができます。

※上級行政庁が取消してOKかは学説によってそれを否定するものもありますが上級行政庁も取り消す場合があります。

行政行為の撤回→当該行政庁(処分庁)

撤回は、行政行為の当初は適法であったものを「やっぱおかしい」と行政庁の判断をもとにして行われるものであるため、撤回権者は当該行政庁(処分庁)のみです。

でるでるマーク!重要頻出

取消 撤回
当初の瑕疵 当初から瑕疵あり 当初に瑕疵なし
主体 当該行政庁(処分庁)・上級行政庁・裁判所 当該行政庁(処分庁)
効果 遡及的に無効(全部無効) 将来的に無効(それまでのものは無効にはならない)
法律の根拠 不要 不要
Mr.OK(著者)
取消は「遡及的に無効になるほど、当初から瑕疵がある」ので、主体は「当該行政庁」「上級行政庁」「裁判所」と大げさです。
しかも、職権取消も裁判取消もありえます。当たり前ですよね、設立当初から瑕疵のある行政行為を行ってるわけですから、
そんなものは様々な救済法がなければならないですし、そんなものはずーーっと無効化しておくべきなのです。

一方、撤回は「将来的にだけ無効になるくらいの瑕疵で設立当初は瑕疵がない」ので、「気づいたときに無効化」すればいいのです。
でも当初は瑕疵がなかったわけで過去の分まで全部無効にする必要はないので将来的にだけ無効化するだけです。
なので主体は、「おかしくなってきた!」と気づいた当該行政庁(処分庁)だけなのです。

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