この記事は「行政上の義務履行確保のうち”行政上の強制執行”」について行政書士試験対策向けにわかりやすく解説しています。

行政上の義務履行確保とは?
文字通り、行政が相手方(おもに国民)に対し義務の履行を確保することです。
つまり、国民が行政に対して持つ債務を履行させることを行政上の義務履行確保と言います。

行政上の義務履行確保には、おもに
「行政上の強制執行(行政強制)」「即時強制」「行政罰」「その他の手段(氏名公表等)」があります。

この記事ではそのうち「行政上の強制執行」について解説しています。
行政上の強制執行(行政強制)とは?
行政行為には「自力執行力」があり、
行政が「国民に義務を課し、さらにその義務を国民が履行しない場合には、その履行を強制」することができます。
自力執行力:裁判所の判断を待たずに、相手方である私人の意思に反しても、その内容を強制し実現すること(法律の根拠がある一部の行政行為のみ)


基本的に、国民に対して行政が義務を課し・その義務履行を強制することは非常に制限されるはずですが、
法律に基づいて一部だけ「義務履行の強制ができる」自力執行力に基づく行為のことを、「行政上の強制執行」といいます。(「行政強制」ともいう)
要は、国民の義務履行を確保(国民が義務を履行することを実現する)のための行政行為を「行政上の強制執行」というのです。

「行政上の強制執行」には、
「代執行」「直接強制」「執行罰」「行政上の強制徴収」の5種類があります。


これはすらすらいえるように暗記しましょう。そしてそれぞれがどんな特徴があるかは次に解説します。
行政上の強制執行の対象
行政上の強制執行には対象があります。まずは以下図をご覧ください。
| 強制執行となる対象となる義務・行為 | |
| 代執行 | 代替的作為義務のみを対象 |
| 直接強制 | 代替的作為義務/非代替的作為義務の両方を対象 |
| 執行罰 | 代替的作為義務/非代替的作為義務の両方を対象 |
| 行政上の強制徴収 | 一部の金銭債権を対象 (国民側からすれば行政庁等に対する金銭債務) |
代替的作為義務???あまり聞かない単語だと思いますが、
代替的作為義務:他人が代わってなすことができる義務
のことです。
なので非代替的作為義務というのは、
非代替的作為義務:他人が代わってなすことが「できない」義務
→つまり、本人自身が義務を履行しないと義務の履行とはなりえない義務
★代替的作為義務:他人が代わってなすことができる義務
★非代替的作為義務:他人が代わってなすことが「できない」義務
→つまり、本人自身が義務を履行しないと義務の履行とはなりえない義務
いまいちイメージしづらいと思うので、それぞれ例を出すと・・・
代替的作為義務の例

★非代替的作為義務:他人が代わってなすことが「できない」義務
→つまり、本人自身が義務を履行しないと義務の履行とはなりえない義務
| 一般的な建物の建築 一般的な動産・不動産の修繕・修復の債務 建物収去の債務 看板や廃棄物の撤去の債務 庭の清掃の債務 貨物運送の債務 |
このようなものがあります。
たとえば看板の撤去などは「やろうと思えば誰でもできる」義務ですよね。
看板の撤去という状態を実現するために、それを行うのが誰で会っても実現できるわけです。
たとえば、公共道路に違法な看板が立てられていてそれを撤去するようにAさんが言われたとします。(Aさんは看板撤去の義務を行政から負っている)
本当はAさんが看板を撤去しなきゃいけないのに、Bさんが看板を撤去したとします。それでも公共道路上にもう看板はなくなったので「結果OK」
となります。
ちなみに、代執行はこの「代替的作為義務」のみを対象とします。
非代替的作為義務の例
★非代替的作為義務:他人が代わってなすことができる義務
| 夫婦の同居義務 一流のピアニストやヴァイオリニストがピアノやヴァイオリンを演奏する義務 |
執行罰及び直接強制は、代執行と異なり、代替的作為義務以外の非代替的作為義務や不作為義務も対象にすることができます。
なお、行政上の強制徴収は、一定の金銭債権のみを対象とします。
では、代執行・直接強制・執行罰・強制徴収についてそれぞれ詳しく見ていきます。
(行政)代執行

代執行とは、代替的作為義務が履行されない場合の強制手続です。
代替的作為義務の例はさきほども述べたように、
一般的な建物の建築
一般的な動産・不動産の修繕・修復の債務
建物収去の債務
看板や廃棄物の撤去の債務
庭の清掃の債務
貨物運送の債務
などがあり、
例えば、違法建築物に対してその除去命令をしたにも関わらず、当該建築物の所有者が除去をしないため、行政庁が解体業者に依頼し解体し、
その後解体費用を違法建築物の所有者に請求するなどがあります。
例:京都市景観条例に基づく行政代執行
条例違反状態に改築された建物の一部分を元に戻し条例合法状態に戻す行政代執行が行われた例がある。
出典元:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO80827680S4A211C1000000/
「ただ今から京都市が、行政代執行法第2条の規定に基づく代執行を実施し、本件違反建築物の是正工事に着手する」。ーーー中略ーーー
京都市はーーー、伝統的建築物の指定を受けた木造家屋のショーウインドー部分を、条例違反前の状態に「原状回復」する行政代執行を実施した。
代執行については、行政代執行法という代執行に関する一般法があり、その他に特別法(建築基準法や土地収用法など)に代執行の規定もあります。
でるでるマーク!重要頻出
強制執行において、一般法が存在するのは「(行政)代執行」のみ!
行政代執行法
代執行には、行政代執行法が一般法として存在しています。
行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる(1条)
代執行以外の行政上の義務の履行確保に関する「執行罰」や「直接強制」は、法律に定めがなければ実行することはできません。
でるでるマーク!重要頻出
条例に定めをすることにより、執行罰や直接強制をすることはできない!法律の根拠がある場合のみ!
代執行ができる場合。代執行ができる要件。

代執行ができる場合は非常に限られます。以下の要件をすべて満たした場合のみ、代執行を行うことができます。(できます、なので必ずしもしなければならないわけではない。)
①法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。)により直接に命ぜられ、
②又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代ってなすことのできる行為(代替的作為義務)に限る。)
について義務者がこれを履行しない場合
③他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、
④その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき
でるでるマーク!重要頻出
代執行については、法律・条例・規則に基づく義務についても対象となります!(さっきの京都の違法建物の例も条例を根拠にしてるけど、代執行できていた)
この4つをすべてみたさなければ、代執行はできません。

①法律または条例、命令、規則により直接命じられている
②代替的作為義務が実行されず
③代執行以外だとその実行をするのが難しく
④代替的作為義務を実行されてないことを放置すると著しく迷惑なとき(公益に反する)
という結構厳しい要件があります。
なんでもかんでも行政が「違反者の代わりに執行すること」(代執行)はできない!ということですね!
代執行の手続
代執行の手続の流れです。

この流れは憶えておきましょう。
でるでるマーク!重要頻出

代執行の順番は過去問で複数回出てます。戒告と代執行令書の順番を逆にしたり・・・
細かい話ですがきちんと覚えておこう!
戒告(かいこく)→カ行
令書(れいしょ)→ラ行
あいうえおでいうと、
ラ行のほうが当然後なので、「戒告→令書」と覚えました。
書面による戒告
代執行をなすには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、予め文書で戒告しなければならない(3条1項)。
必ず文書で戒告します。口頭ではできません。
代執行令書の送付
戒告を受けて、指定の期限までにその義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもって、以下の事項を義務者に通知する(3条2項)。
代執行令初に記載すべき事項は以下です。
・代執行をなすべき時期
・代執行のために派遣する執行責任者の氏名
・代執行に要する費用の概算による見積額
非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、戒告や代執行令書の送付手続をとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行をすることができる(3条3項)。
非常の場合や危険切迫の場合は、文書による戒告・代執行令書の送付手続きなしで代執行を行うことができます。
執行責任者
代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは、いつでもこれを呈示しなければならない(4条)。

要求があるときのみ呈示する。(逆に要求がなければ呈示する義務はない。あくまで携帯義務のみがある)
費用の徴収
代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもってその納付を命じなければならない(5条)。

代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる(6条1項)。

国税滞納処分は「税金払わなかったら差し押さえて強制徴収するよ!」ってことなので、
それと同様の手続きで強制徴収することもできるくらい強いよ!ってことです。
代執行に要した費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属に従い、国庫又は地方公共団体の経済の収入となる(6条3項)。

国の行政機関による代執行→国庫の収入
地方公共団体の行政機関による代執行→地方公共団体の収入
簡易代執行
代執行は、一定の要件を満たさなければ行うことができないため、個別法でその要件を緩和する例があります。
これを「簡易代執行」といいます。
簡易代執行は、代替的作為義務を命じようとしても、その相手方が不明の場合に、一定の期限を設けて一定の措置を行うべき旨をあらかじめ公告し、当該措置が行われない場合に代執行を行えるというものです。
直接強制
行政上の義務の履行がない場合に、義務者の身体又は財産に直接に実力を加えて義務が履行されたのと同一の状態を実現する作用です。
直接強制は、人権侵害の危険性が非常に高いため、個別法に定められたものしか認められません。
現在のところ、直接強制について規定されているのは、
成田新法(成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法)等のみで、行政書士試験に出るのは、
成田新法のみです。
執行罰

執行罰というのは、
行政上の義務を相手方が履行しない場合に、過料を科すことを予告し、その心理的圧迫によって間接的に義務者の義務の履行を促す手段です。
未来志向です。(行政罰と比較すると、行政罰は「すでに行われた不履行に対する罰」なのに対し、執行罰は「もし未来に義務履行しなければ
過料を科すよ」という未来志向型の間接的な義務履行確保なのです。)
この過料は、少額であまり効果がないことから砂防法36条(500円以下で指定した金額)にその規定があるのみです。
義務の履行があるまで複数回にわたり処することも可能です。
複数回のわたって処することは、憲法39条の二重処罰の禁止に該当しそうですが、
刑事罰の罰金とは異なり、その目的が義務の履行を確保するための手段に過ぎないので、複数回にわたって処することができるとされています。
行政上の強制徴収

行政上の金銭債務を義務者が履行しない場合に、強制的に義務者の財産を換価などしてその債務を実現する(行政側からすると債権を実現)ことです。
例えば、国税の滞納があった場合に、強制的にそれを徴収することにより租税債権を強制的に実現するなどのことをいいます。
国税債権については、国税徴収法が制定されており、同法に規定する国税滞納処分の手続により強制徴収されます。

(ちなみにこの強制徴収とは全く関係ないけど、
代執行には「行政代執行法」という一般法がありましたよねっと。こんな風に多層的に学習していきましょう!
司法的執行の可否

行政上の義務の履行を求めるために、行政的執行ではなく、司法的執行が認められるでしょうか。
要は、「行政上の義務を履行させるために、行政機関は、裁判所に頼ることができるのか?」ということです。
結論から言うとできません。
2個判例があります。
農業共済事件(最大判昭41・2・23)
農業共済組合が、法律上独自の強制徴収の手段を与えられている場合(行政的執行)でも、その手段によることなく、一般私法上の債権と同様、訴えを提起し、民事訴訟法上の強制執行の手段によりこれらの債権の実現を図ること(司法的執行)はできない(最大判昭41・2・23)。
宝塚市条例事件(最判平14・7・9)
行政事件を含む民事事件において裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」、すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。
国又は地方公共団体が提起した訴訟であって、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たるというべきであるが、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許されるものと解される。そして、行政代執行法は、行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、同法の定めるところによるものと規定して(1条)、同法が行政上の義務の履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法としては、同法2条の規定による代執行のみを認めている。
また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。したがって、国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。
行政が財産権の主体として提起→法律上の争訟にあたる
行政が行政権の主体として提起→法律上の争訟にあたらない(法律に特別の規定がある場合のみ争訟にあたる場合があるのみ)

まとめ:

今回は、行政上の義務履行確保の中の、行政上の強制執行(行政強制)の4種類「代執行」「直接強制」「執行罰」「強制徴収」を
解説しました!

いかに軽くポイントおさらい。
| 説明 | ポイント | |
| 代執行 | ・行政代執行という一般法あり ・戒告→令書→代執行→徴収の順番 |
・行政代執行という一般法あり ・法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。)を根拠に執行できる。 ・戒告→令書→代執行→徴収の順番 |
| 直接強制 | 義務者の身体又は財産に直接に実力を加えて義務が履行されたのと同一の状態を実現する作用 | ・一般法なし、個別法で成田新法のみ ・条例や規則では執行できない |
| 執行罰 | 過料を科すことを予告し、その心理的圧迫によって間接的に義務者の義務の履行を促す手段 | ・一般法なし、個別法で砂防法のみ ・条例や規則では執行できない |
| 強制徴収 | 行政上の金銭債務を義務者が履行しない場合に、強制的に義務者の財産を換価などしてその債務を実現する(行政側からすると債権を実現)こと | ・一般法がないため国税滞納処分の例による |
何度も読み返して理解しましょう!

